喘息(妊婦・授乳婦)
今回、気管支喘息(咳喘息)の妊婦さんと授乳婦さんについて、聖マリアンナ医科大学呼吸器内科病院教授の粒来崇博先生の医師用の報告を、私の意見も加筆して一般の方にもわかりやすくまとめてみました。
喘息の妊婦さんの割合
全国調査では、20〜44歳の間に病気を持っている方は9.4%(男性9.8% 女性9.0%)ですが、同様の年代で喘息の方はなんと5.4%とされて半数以上を占めます。
喘息が妊娠に与える影響
女性は月経前には増悪しますが、妊娠・出産でも影響が出ることが多いです。
通常妊婦さんは、赤ちゃんにより肺が押されるので、呼吸回数をやや増やして酸素濃度を保とうとします。つまり通常の状態でも妊婦さんは酸素を保とうとする予備力が少ないと言えます。喘息発作により妊婦さんが(血中の)低酸素になると赤ちゃんも低酸素に陥りますので、早産や低体重や先天性異常の頻度が高くなります。
逆に喘息コントロール良好の妊婦さんは、妊娠と出産に喘息による影響はほぼないとされています。
喘息がもっともコントロール不良になるのは、妊娠24〜36週とされています。その後落ち着いていき、出産後は以前のようになりますが、次の妊娠でも同じ経過となることが多いとされています。現在は以前よりステロイド吸入剤によりコントロールは改善されています。
妊娠中の喘息薬の選択の難しさ
喘息治療が妊娠・出産にどう対応していけば良いでしょう?
いわゆる薬の法律的根拠とされる添付文書では、『有益性が上回れば使用可能』との文言が多く判断しづらくなっています。この添付文書だけで判断すると妊娠・出産できなくなる女性の方が少なくありません。
現在日本では、国立成育医療研究センターという施設で、情報提供やデータ収集を行われています。当院でもこの施設出版の医学書で妊婦・授乳婦さんへの薬処方を決めております。
催奇形性0%との薬はなかなか証明できないと思いますが、できるだけ医学的な情報より、使用すべき薬と使用しない方が良い薬を見極めるべきと思います。
妊娠中の喘息薬について
実際の妊娠中の治療は、ガイドラインでも一般の方と同じでステロイド吸入薬(ICS)が第一選択になります。
当院でももちろんICSを中心に、さらにコントロールできなければ、気管支拡張剤や抗アレルギー剤などをガイドラインに従って処方しております。特にあとの2種類の薬の選択に関しては、国立成育医療研究センターの指針となぜか異なる処方を多く見ます。
また抗体製剤に関しては有益な報告もありますが、十分なデータが蓄積されていません。さらに喘息発作時に必要な内服ステロイドは妊娠2〜3ヶ月以降は影響が少ないとされています。特にプレドニゾンは胎盤を通るには大部分が不活化されます。
当院でも慎重に喘息発作時など必要時には処方しております。
喘息の授乳婦さんについて
授乳婦さんは、実は妊婦さんより情報があまりなく、より薬剤選択が難しいと思います。先ほど述べた添付文書では授乳婦さんの薬剤使用を明言するものは更に少ないと実感します。赤ちゃんを連れての治療試験参加が困難であるからではないかと想像しております。先ほど述べた国立成育医療研究センター出版の医学書を唯一参考にして判断しております。
妊活の喘息患者さまについて
喘息がコントロールされていれば一般の人に比較して不妊率が高くありませんし、不妊治療が喘息悪化をもたらす報告はありません。しかし妊娠極初期に薬を使うわけですからより慎重にならざるを得ません。
当院では妊活中でも妊娠されている方と同様に対応するようにしております。
一方、治療を控えてしまうと喘息コントロールが不良になり、逆に妊活に影響を与えてしまいかねません。そうならないように患者さまと相談しつつ治療してもらうことが大切であると思います。
喘息への迅速な対応と他施設との連携
喘息、特に発作は刻々と変わる病状に、対応するスピードが大事であると常々思っております。
症状を評価することに加えて、呼吸などで喘息の客観的な活動性を評価したり、感染が疑われれば迅速採血で炎症がないかなど判断したりしております。
またクリニックでは出産が困難と判断した場合に、過去阪大病院や市立病院に紹介して出産をお願いしたこともあります。今後も他施設の産科と連携して参りたいと思います。
最後に
喘息の妊婦さんが出産して、赤ちゃんを連れて受診された時は、喜びもひとしおです。喘息の方が、妊娠して無事出産できるように、当院で今後もサポートしていきたいと思います。