妊娠と薬について
以前、日本医師会雑誌に掲載された国立生育医療研究センターでの妊娠と薬情報センターのセンター長村島温子先生の医師向けの内容を、私の考えも加筆して、なるべくわかりやすく記載いたしました。
妊娠と薬
はじめに
まず知っておくべきことは、自然に発生してしまう流産と先天異常ですが、それぞれ15%と3〜5%と決して低くない値です。しかし、妊娠期に催奇形性のない薬を使用しても、原因にしてしまいがちです。
つまり、万が一赤ちゃんに異常があった場合に、たとえ薬が影響していないとしても、どうしてもその使用を後悔してしまいます。ですので、できるだけ催奇形性のより少ない薬を選択すべきであると思います。
妊娠時期と薬剤の児への影響
下記のように3つの時期に分けられると説明されています。
①受精〜妊娠4週:『全か無かの時期』 と呼ばれます。
受精卵が薬剤などによる影響を受けた場合、流産してしまいます。
②妊娠4周〜12週:『催奇形性に注意しなければならない時期』と呼ばれます。
胎児の骨格や器官ができる時期にあたります。特に妊娠10〜12週は小さい形態異常を起こす可能性があります。
③それ以降:『胎児毒性に注意しなければならない時期』と呼ばれます。
胎盤を移行する低分子化合物などは、高濃度で胎児に移行します。この時期に気をつけなければならないのは、非ステロイド性抗炎症薬、ACE阻害剤、ARB(アンギオテンシンII受容体拮抗剤)が有名です。
安全性評価の指標
①添付文書
いわゆる『薬の取扱説明書』ですが、妊娠・授乳中の唯一の公的評価基準です。しかし発売時での動物実験での結果に基づいています。したがってヒトでの結果とは違い、またその後に疫学的に催奇形性がないとの報告が出ても、あまり記載は変更がありません。最近はこの乖離を埋める取り組みが始まっています。
②専門機関との連携
個々の相談においては、大阪では『大阪母子医療センター』の「妊娠と薬外来」へご相談ください。
授乳と薬
日本の添付文書では、なんと薬剤が乳汁中に分泌されるデータがある場合は、新生児への有害事象にかかわらず、授乳中止となっています。
ですので、新生児への実際の薬の投与量が非常に少ない場合が多いので、(抗癌剤や一部の抗てんかん剤やヨード製剤を除いて)授乳継続可能な場合も少なくありません。
それぞれの薬についての詳細は、妊娠と薬情報センターのホームページをご活用ください。
当院では妊婦さんも授乳婦さんに対しても、国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターから出版されている書籍を用いて、処方をしております。
妊活中の患者様について
当院でも多数の妊活中の患者さまが通院されています。通常は妊娠中と解して、加療しております。いつも参考にしていますが、国立生育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター長」の村嶋温子先生が、『妊活中に処方しない方がいい薬剤』との座談会の記事を見ました。今回、妊活中に特化した内容は珍しいと思いましたので、下記に6項目に私なりに要約しました。
①まず内服薬剤がなくても、先天異常の自然発生率が、どうしても2〜3%があること。
②次に、妊娠しても継続できなくなる「全か無の時期」を考えることが、大切になります。
”妊娠4週プラス数日間(妊娠週数は最終月経から数えます)”は「全か無の時期」と言って、薬剤などで大きな影響があると妊娠継続できません。この間に妊娠を知らずに薬剤内服しても、奇形という形では影響は残りません。
③慢性疾患のある方は、まず担当医と相談することです。
使用する薬(サリドマイド等明らかに悪い物は別として)から見ると、ワルファリン、ミコフェノール酸モフェチル(免疫抑制剤)、メトトレキサート(抗リウマチ薬)、バルプロ酸(抗てんかん薬)などが上がります。
④急性疾患で注意する薬剤は、ミソプロストール(サイトテック®:解熱鎮痛剤の胃粘膜障害を予防)と非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)です。
前者はメトトレキサートと一緒に用いて、中絶目的に使われる薬剤です。後者は、常用はしないほうが良いとのことです。
⑤他にはニキビ治療薬であるビタミンA誘導体(ビタミンAそのものではありません)のイソトレチノイン酸(イソトロイン®アキュテイン®ロアキュタン®)で、量に関係なく注意が必要とのことです。
⑥男性パートナーの薬は心配することはないとのことでした。
他当院では、妊婦・授乳婦様の処方に関しては、国立生育医療研究センターの先生方が出版された『妊娠と授乳』という本に準じております。したがって、他施設が処方されたのに、当院ではこの本で確認が取れない場合は処方をお断りする可能性があります(例えば去痰剤など)。ご理解のほど、よろしくお願いします。